一般社団法人 西宮市歯科医師会

入れ歯の手入れについて
親里 嘉之
Q:入れ歯の手入れ方法について注意すべきことは何ですか?

A:部分入れ歯には、残存している歯に抱きつく形の繊細な金属のクラスプ装置などがありますから、決して力を入れた手入れはしないで、丁寧にやさしく清掃してください。 その際、綿棒や、細かい部分も清掃しやすい入れ歯専用の歯ブラシなどの使用をおすすめします。 よく口の中に入れたまま入れ歯を磨く患者さんもおられますが、必ず口から外して行うようにしてください。 これもよくある例ですが、入れ歯を消毒と称して熱湯に浸けたり、煮沸する方もおられますが、入れ歯が変形しますので絶対におやめください。
 入れ歯を使用する患者さんは、もちろん高齢者が多くを占めています。 入れ歯を入れることはお口の中に非常に汚れが残りやすい状態になります。 清掃が不十分な場合、歯そのものが動揺、すなわち周囲の歯茎の炎症や出血を伴う歯周病がかなりの頻度で見られます 。また使用している入れ歯の汚れも目立ちます。 入れ歯表面のヌルヌルや食べ物のカスは細菌の温床で、口臭発生の原因なり、さらに歯茎に悪影響を及ぼしてきます。
 このような悪循環によって、入れ歯や歯の周囲の汚れ即ち歯垢に存在する口の中の細菌は,ますます増殖しやすい条件が整ってきます。 手入れの極度な不備による汚れは強固に付着しており、私たち歯科医師でも閉口することがあります。 入れ歯の汚れの中でも、歯石のような白色もしくは灰白色の硬い沈着物が、入れ歯の表面に見られることがあります。 ブラシなど通常の方法での除去は困難ですが、決してカッターやナイフを使用しないでください。 傷をつけたり破損の原因にもなるからです。 必ず歯科医師による判断のもとで研磨し直してもらって下さい。 比較的簡単に、きれいにしてもらえます。
 入れ歯の清掃時に、誤って流しに落下させたりすると、入れ歯が壊れてしまうことがあります。 流しの水盤に水を溜めておき、万一落下してもポチャンと軟着陸して、入れ歯にはダメージがないようにしておくとよいでしょう。
 入れ歯は患者さんのために作られた唯一の人工臓器と言えるかもしれませんが、あくまでも咀嚼・嚥下・発音するための道具なのです。 道具を上手に使いこなすためには、ある程度の慣れと正しい日常の手入れが大切です。 そうしたことができて、はじめて日々の快適な入れ歯人生が確保されてくるものなのです。
 部分入れ歯を使用していく中で、さまざまなトラブルが起きてきます。 大事に残しておいた残存歯にも,ある時期が来ると、歯もしくは歯周組織の痛みや動揺によって、抜歯することを余儀なくされることがあります。 この現象はどうしようもないことなのですが、なるべく先送りをして、健康的に歯を存続させていきたいものです。 残っている歯を一本でも失えば、部分入れ歯の安定に大きく影響することになります。 これは、その歯に安定装置が設置してある場合と、そうでない場合で状況が変わってきます。 新たに歯を失っても、状況によっては現在使用中の入れ歯の修理や調整をして、再度使用に耐えることもあります。 
 また、入れ歯を長期に使用することで、人工歯の噛む面に磨り減りが見られることがあります。 この磨り減りの量が多いと、上下顎の噛みあわせの高さが変化してしまい、入れ歯の不安定、周囲粘膜の痛み、さらには顎の筋肉や関節の不調までを起こす場合があります。 このときは噛む面をレジン(アクリル樹脂)などによる磨り減って部分の追加補修や、人工歯の交換などで対処します。入れ歯にゆるみが出てきて、入れ歯と歯ぐきの隙間に多くの食べかすが入り込んできたりする場合には、義歯と粘膜の接触面をレジンで裏打ちすることで解決できます。 これらのトラブルの場合には早めに歯科医に相談されると良いでしょう。


Q:入れ歯安定剤をお使いの方もおられるようですが?


A:入れ歯と歯茎が粘着する力は、その間に隙間が出来ると失われてしまい、入れ歯の安定が悪くなります。 そのような時に一時的に安定剤を使うことも一方法かと思います。 義歯安定剤は、大きく分けて粉末タイプ、クリームタイプ、クッションタイプなどがあり、多くの製品が市販されています。
 入れ歯と歯茎の隙間が小さい時には粉末タイプが有効で、安定剤そのものの厚みが薄いため、入れ歯の噛み合せなどへの影響は少なく、簡便に利用することが出来ます。 入れ歯の粘膜面に均一に振りかけ、粉末が唾液と接触することで粘着性を発揮し,入れ歯と歯茎が粘着することで安定することになります。 しかし、唾液に溶け出してきたり、清掃時には簡単に流れてしまい、長時間の使用には向かないようです。
 クリームタイプは、入れ歯の粘膜面の数ヶ所に塗った上で、噛み締めると、容易に広がって、粘着性を発揮するものです。 粉末タイプより粘着効果が持続しますが、入れ歯に付着した安定剤はあとで比較的容易に取れますが、歯茎に付着した安定剤はなかなか綺麗に取りづらく、ベタツキが残ることがあります。このベタベタを残したまま再度使用すると、食物のカスなどがつきやすく、口の中が段々と不潔になっていきます。
 クッションタイプは、入れ歯のガタツキが大きく入れ歯と粘膜面に隙間があるときに使用し、粘膜面に出してから指でなるべく均一に広げ、口の中で噛み合せる事で、ガタツキの原因である入れ歯と歯茎との隙間を埋め、密着性を高めて入れ歯を安定させるものです。 また、クッションタイプといわれる様に、素材そのものに弾力性と厚みがあるために、義歯による部分的な痛みの発生も緩和してくれる効果もあります。 ベタツキもなく取り扱いも容易です。 しかし安定剤の厚さが不均一で全体に厚くなりやすく、部分的に歯茎の炎症や顎の骨への悪影響も見られることもあります。 最も危惧されることは、上下の顎の噛み合せの関係を安定剤の厚みが変化させてしまう恐れがあることです。 ひいては、歯茎や、筋肉のさらには顎の関節まで影響することがあります。 いずれにしても、入れ歯安定剤は一時しのぎと考え、その不安定になった入れ歯本体の状態を歯科医師によって診査してもらい、調整してもらうかまたは新たに入れ歯を作製してもらうとよいでしょう。


Q:高齢者が入れ歯を使う場合に、注意すべきことは?


A:歳をとるに従い、口臭が気になる、歯が痛い、歯茎から血が出る、歯がグラグラしている、入れ歯でうまく噛めない、食べカスが詰まるなど、自覚しうる症状が必ずあるはずです。 気になったら、なるべく早めに歯科医師の診察を受けることが大切です。
 反射機能が衰えた高齢者は、時として就寝時などに、細菌で汚染された唾液を、無意識に間違って肺に入れてしまい、誤えん性肺炎という、重い病気にかかることがあります。 とくに体力や免疫力が低下している寝たきりの高齢者にとっては、死にいたることも決して少なくありませんから、十分に注意しなければなりません。

引用文献:月刊誌 歯医者さんの待合室
       知らないと損をする入れ歯の知識と手入れのポイント 
       金田歯科医院・歯学博士 金田 洌