一般社団法人 西宮市歯科医師会

親知らずについて(2)
柳 治夫
Q:下顎智歯周囲炎の他に、親知らずを放っておくとどんな事が起きるのでしょうか?

A:全ての歯は支えが無ければ前へまたは上の方へ進もうとする法則があります。歯並びの最後に位置する親知らずが、きちんと萌えるスペースがない場合、そのすぐ前の第二大臼歯を常に圧迫し続ける事になります。歯並び全体が押されるため、この力により前歯のあたりの歯並び、例えば犬歯(糸切り歯)や第一小臼歯の位置が乱れ、歯並びを悪くする原因の一つとなるのです。
 また親知らずはすぐ前の第二大臼歯を継続的に圧迫するので、第二大臼歯の歯根が吸収される事があります。こうなってしまうとせっかくの第二大臼歯も抜歯しなければならなくなる事もあります。
 その他に通常上下左右合計4本あるはずの親知らずが3本とか2本しかない場合があります。このような場合、例えば上の親知らずが萌えても咬み合う相手が先天的に欠損しているようなときは、物を咬む役目が果たせないばかりか、その歯が他の歯よりも伸びすぎて頬や下顎の歯ぐきにあたり潰瘍を作ってしまう場合もあります。また物を食べる時に他の歯に当たって顎の関節に負担をかける場合もあります。
 このような場合、歯科医師は親知らずの状態を十分に診察し、抜歯も含めた親知らずの処置をする事になります。


Q:抜歯を受ける前に気をつけることってありますか?

A:それでは親知らずに限らず、歯を抜く前に気をつけるべき一般的な注意をお話します。
 まず前日の注意ですが、第一に十分睡眠をとるという事です。睡眠時間が少ないと普段はなんともない局所麻酔の注射でもショック状態になることもあります。第二に入浴、洗髪をしておく事です。抜歯した当日は入浴を避けた方が良いですし、抜歯後の経過によっては数日間洗髪できない場合もありますので、あらかじめ入浴、洗髪をしておくとよいでしょう。そして前日の仕事や運動は通常通りになさってかまいませんが、極端に体力を消耗するような仕事や運動は控えるようにしましょう。
 次に抜歯当日の注意ですが、食事は直前にお腹いっぱい食べていますと、消毒薬の刺激などで気分が悪くなる事があります。また逆に若い女性の方などが食事を摂らずに抜歯にのぞみ、ショック様の状態になることがあるという事も知っておく必要があります。お昼からの抜歯の予約であれば、朝食を少し早めに食べ、昼食も抜歯の二時間ほど前に普通に摂っておかれると良いでしょう。服装は着ていて楽なものが良いでしょう。具体的には胸やお腹などを圧迫する服装やタートルネックなどは避けた方が良いでしょう。そしてイヤリング、ネックレスといったアクセサリーも、処置が長い場合には気になって邪魔になる事もあります。口の周りは消毒しますので、女性の方は化粧についても留意されると良いでしょう。歯磨きはいつものようにしてください。当日風邪を引いたり、生理が始まったりして体調がすぐれないときは前もって電話で担当医に相談されるといいでしょう。交通手段としてご自分で車を運転して来る事は控えて下さい。使用した薬剤の影響で多少眠くなることもありますし、また傷口からの出血や痛みが気になり、運転に対する注意力が低下する恐れがあるからです。


Q:歯を抜いた後は、どんなことに注意しなければいけないのでしょうか?


A:抜歯をした後に「今日は入浴しないでください」と説明を受けます。抜歯では口の中にしか傷がないのに入浴できないのはおかしいと思われる方もいるかと思いますが、その理由は入浴することによって体が温まると血行が良くなり、抜歯をした部分から出血しやすくなったり、痛みが出やすくなる事があるからです。また抜歯をした傷口のところから細菌が血管内に入り込んで、いわゆる菌血症といった状態を生じている場合もあります。このような状態で入浴すると発熱する場合もあるからです。また抜歯後二日目、三日目でも腫れが強い場合には、入浴により腫れを一層強くする事がありますので避けた方が良いでしょう。
 抜歯した当日はうがいをあまりしないでください。歯を抜いた傷あとには出血を防ぐために血液が固まってできる寒天状の血餅が傷口を被っていますが、うがいをする事によってこの血餅がはがれるので出血しやすくなります。出血してきたらあわてずに30分間ほどガーゼを傷口に当てて咬んでください。
 抜歯後すぐに食事をしたり、寝てしまったりすると、自分の歯で舌や頬を咬んでしまうことがあります。抜歯のために使用する麻酔薬のために痛みを感じないことが原因です。抜歯後30分くらいは食事を避けて下さい。麻酔が切れて出血もほとんど止まったのを確認してから食事をするとよいでしょう。
 抜歯した当日は特に辛い物や熱い物、消化の悪い物を避ければ何でも好きな物を召し上がっていただいて差し支えありません。ただしアルコール類は避けてください。そして食欲が無くても水分は十分に摂ってください。


Q:その他に何か気をつけることは?

A:全身疾患をもっている方で抜歯後も全身管理を必要とする方、親知らずが骨の奥深くにあり全身麻酔を必要とする方などは入院した方が良いでしょう。入院すれば何本かの親知らずを同時に抜歯することも可能です。大学病院や市内の大きな病院には歯科口腔外科という科を設置している所がありますので、そういった施設に紹介を受けてください。
 いずれにしても普段から、かかりつけの歯科医院で定期的な検診や歯磨き指導を受けていれば問題を起こすような親知らずは早期に診断されますので、処置も軽く済ませる事が期待できます。

 参考:夏目長門、鈴木俊夫著
     「親知らずのはなし」
     医歯薬出版 1992年