「失くしてから知る歯の大切さ」
是非読んでください。

一般社団法人 西宮市歯科医師会
でん太

口腔ケアで体も心も健康に

うがいや歯みがきなどの口腔ケアは、口のトラブルの原因となる歯垢や歯石、食べかすなどを取り除いて、口の中を清潔にしますが、その効果はむし歯や歯周病、口臭の予防だけではありません。口の中が清潔で、健康な状態になれば、食事を噛んだり飲んだりする、咀嚼機能の回復へとつながります。

咀嚼機能(そしゃくきのう)が回復すれば、唾液の分泌量が増えるために、消化や吸収が促進され、口から食事が食べられるようになります。自分の口で食事をおいしく味わえるようになれば、栄養状態も改善され、体力、抵抗力もついてきます。身体機能の回復をはかることもでき、他人との会話や食べる楽しみを味わうことができるようになり、生きる意欲が湧いてきます。そして誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)などの感染を予防することにもつながります。

このように、口腔ケアを行うことが好循環となり、高齢者の生活を豊かにするさまざまな効果が期待できます。

口腔ケアの必要性

食べることは、単に栄養補給をすることではありません。自分の口で食べ、「おいしかった」「お腹いっぱい食べられた」という満足感を得ることで、体も元気になり気持ちも明るくなって、積極性も湧いてきます。しかし、「食べることが苦痛」「食べたくない」という状況が続けば、エネルギーが不足し、気力、体力も低下します。物事に感動したり、外からの刺激を受けたりする機会がなくなれば、脳の機能も低下していきます。1日中ぼんやり過ごすことが多くなって、体を動かすこともおっくうになり、いつしか「閉じこもり老人」になってしまうかもしれません。

口のトラブルは、口腔ケアを行い、不具合を治療することで改善することができます。口腔ケアは早くから始めるに越したことはありませんが、今から始めても手遅れということはありません。食べることは身体的にも精神的にも生きる喜びにつながります。食事がおいしく食べられるようになれば、気力も回復します。寝たきりでほとんど反応がない人も、口の中がキレイになればピンク色の粘膜がよみがえり、表情も明るくなります。さらに誤嚥性肺炎も起こしにくくなります。口腔ケアは健康面だけでなく、心理面への影響も大きく、高齢者の生活の質を向上させる、大きなカギを握っています。

口は体の入り口ですが、細菌やウイルスにとっても侵入口です。健康な状態であれば、口から入ろうとした細菌やウイルスは、唾液中に含まれている抗菌物質によって弱くなります。けれども口の中が汚れていると、この防御機能がうまく働かなくなって、体内への侵入を許してしまいます。口の中がキレイになれば唾液の出がよくなって、インフルエンザのウイルスや風邪の細菌などを洗い流す効果も復活します。また言うまでもなく、口からしっかり食事をすることは栄養補給の面からみても効果的で、体力がつけば免疫力も高まります。つまり、口を健康に保つことは、抵抗力をアップさせ、全身の健康を保つことに大いに関連しているのです。

高齢者に多い肺炎は、寝ている間に進行します

日本人に多い死因として、「がん」、「心筋梗塞、虚血性心疾患」、「脳血管疾患」と並んで、「肺炎」があります。特に肺炎による死亡の9割は65歳以上の高齢者であるため、肺炎は高齢者の健康管理にとって最も重要な課題です。

高齢者の肺炎は、口の中の細菌などが誤って肺に入って発症する、「誤嚥性肺炎」の割合が高いと言われ、脳血管障害が多いことが関連しています。大脳の基底核で、生命活動に重要な誤嚥反射や咳反射などが阻害され、気道に異物が入るのを防げず誤嚥を起こしてしまうのです。

また、高齢者の肺炎の原因は、気付かないうちに唾液や胃液などが肺に入る、「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」が多いと言われます。認知症、神経症、高齢化が進むと、誤嚥は起こりやすくなるのに、咳反射は弱くなり、誤嚥した物を吐き出すことができなくなります。誤嚥性肺炎を起こした人の多くは、本人も気づかない、寝ている間に誤嚥を起こしています。

他人の口の中はプライベートな部分であり、普段なかなか見る機会がありません。口腔ケアをしようと思っても、なんとなくのぞきこみにくかったり、食事や排泄など他の介護の後回しになってしまったりして、口の中のトラブルには気付きにくいものです。

たかが口の中の汚れ、口のトラブルで死ぬことはないと軽視されがちです。けれども、口に問題があれば食欲が落ちて体力が低下しますし、口の中の細菌が原因で「誤嚥性肺炎」が起こり、命を落とすこともあるのです。

口の中は細菌増殖の好条件が揃っています

口の中は細菌増殖の好条件が揃っています

人の口の中は、ふつう36~37度前後に保たれており、唾液によって潤(うるお)っていて、そのうえ食べかすがあります。このように温度、湿度、栄養の3条件が揃っていれば、細菌が繁殖するには最適な環境です。
また、口の中には歯と歯のすき間や、歯周ポケットがあり、完全に清掃がしにくいという構造的な特徴もあります。入れ歯をはめている場合はさらに汚れがつきやすくなります。

口の清掃

高齢者にとって「楽しく食べること」は、健康状態やQOL(Quality of  life 生活の質)の向上につながります。
食べたり話したりする機能をもつ口の中を、清潔、健康に保つことはとても重要であり、そのためには「口の掃除」は欠かせません。

正しい方法でていねいに行うコツを身につけ、毎日の習慣として口の掃除を行ってください。
口の状態によって方法が異なる場合もあるので、詳しくは主治医にお尋ねください。

好ましくない口の中の様子

歯石
歯石
両側口角炎(慢性紅斑性カンジダ)(岸本裕充教授提供)
両側口角炎(慢性紅斑性カンジダ)(岸本裕充教授提供)
口腔カンジダ症(急性偽膜性カンジダ)
口腔カンジダ症(急性偽膜性カンジダ)
義歯性口内炎(慢性紅斑性カンジダ)(岸本裕充教授提供)
義歯性口内炎(慢性紅斑性カンジダ)(岸本裕充教授提供)
歯石除去前、歯石除去後
歯石除去前、歯石除去後

はみがき

持ち方:鉛筆持ちがおススメ
持ち方:鉛筆持ちがおススメ
当て方:斜め45度
当て方:斜め45度
動かし方:2~3ミリ幅で細かく、小刻みに20回
動かし方:2~3ミリ幅で細かく、小刻みに20回

歯ブラシの毛の硬さについて

歯ブラシの毛の硬さは日本工業規格によって「かたい」「ふつう」「やわらかい」と分けられていますが、「ふつう」の範囲が広いため、メーカーによって、やや硬さが異なります。

歯ブラシの力の入れ具合は、150~200g、熟したトマトの皮に当てて破れない程度が最適です。キッチンスケールに押し当てて力の入れ具合を確認してみましょう。

かえってマイナス(これはダメ!)

力強いゴシゴシ横みがきは、象牙質を削ります
力強いゴシゴシ横みがきは、象牙質を削ります

ここも念入りに!

歯と歯の間と、歯と歯ぐきのさかい目
歯と歯の間と、歯と歯ぐきのさかい目
(抜けている部分の隣り)残っている歯の周り
(抜けている部分の隣り)残っている歯の周り

こんな道具もあります。

歯間ブラシ

歯間ブラシ

ブラシの中心のコイルの太さによって、4S、3S、2S、S、M,L、2L、3L など、7~8種類のサイズがあります。

歯間の隙間に合わせて使用します。
歯間の隙間に合わせて使用します。

ワンタフトブラシ

ワンタフトブラシ

毛先の長いもの、短いもの、中間のもの、毛先の揃っているもの尖っているもの、毛の太いもの、細いものがあります。

デンタルフロス

デンタルフロス
デンタルフロス
デンタルフロス
デンタルフロス

かたいもの、やわらかいもの、太いもの、細いもの、ワックスがついているもの、ついていないもの。フロスには様々な種類があります。フロスのみならず、歯ブラシその他の道具は口の状態によって合うものが違うので、歯科医師や衛生士にご相談ください。指に巻きつけるよりも、輪にして使う方が使いやすいです。

舌ブラシ

唾液、剥がれた口の粘膜、食べかすや細菌などが、舌面の糸状乳頭についたもので、白い苔のようになっているものを「舌苔(ぜったい)」と言います。糸状乳頭部分の栄養血管に、糖分やタンパク質が多くなりすぎると、舌粘膜の上皮の角化が亢進して糸状乳頭が長くなり、これに上述の老廃物などが積み重なると舌苔が厚くなります。舌の真ん中にうっすらと舌苔があるくらいが正常な人の舌の状態です。

舌全体に舌苔が大量についている場合は、舌の動きが低下している可能性があります。疲れがたまっていたり、風邪をひいている可能性もあります。舌の片側にだけ舌苔が厚く付いている場合は、舌の片方の動きが低下している可能性があります。口の機能の左右のバランスが崩れているかもしれません。舌苔がところどころ剥がれて、まだら模様になっていることがあります。地図状舌というもので、胃腸の働きの衰え、ビタミン欠乏などで抵抗力が低下すると現れます。体を休めることが先決ですが、痛みがあるようなら主治医に相談してください。

抗生物質を長期服用していると、舌苔が黒っぽくなることがあります。また、喫煙量が多かったり、慢性胃炎があったりする場合は、舌苔が黄色っぽく、厚くつくことがあります。

舌ブラシの具体的な使用方法は、弱い力(50g)で10回程度、奥から手前に向けて動かします。100gの力では数回で鮮血反応が出てしまいます。無理に全部とる必要はありません。むしろ、舌苔は防御反応の結果生じるものと考えて、全身症状や消化管の改善に配慮をしてください。

スポンジブラシ

先端のスポンジの大きさ、形状、柄の材質(樹脂、紙)により、種類が多くある介護用品です。使用の基本は水を入れた2つのコップA、Bを用意し、まずA水に浸し、絞ってから口腔内で使用し、B水で汚れを落とします。その後A水に浸し、絞ってから再び口腔内で使用しこの動きを繰り返します。乾いたスポンジで擦られる口腔内での不快感を減らすための手間ですが効果的です。

歯磨剤について

  1. 基本成分:
    研磨剤(リン酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム など)
    発泡剤(ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンソーダ、ショ糖脂肪酸エステル など)
    保湿剤(ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール など)
    結合剤(アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース など)
    薬効成分:フッ化物(フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ など)
    薬事法により、基本成分のみの歯磨剤は化粧品歯磨剤薬用成分含有の歯磨剤は医薬部外品歯磨剤に分類されます。国内での歯磨剤の約90%がフッ化物配合歯磨剤で、それらのイオン濃度は1000ppm以下に規制されています。その他、歯垢分解酵素のデキストラナーゼ、殺菌・歯垢形成抑制作用のクロルヘキシジン、血液循環促進・収斂・浮腫抑制作用の塩化ナトリウム、消炎作用の塩化リゾチームなどの成分が入るものがあります。
  2. 発泡剤の、ラウリル硫酸ナトリウムのナトリウムイオンが金属アレルギーの原因になることが稀にあります。
  3. 研磨剤について、例えば無水ケイ酸塩の粒子は100RDAが一般的ですが、低研磨性として、より細かい60RDAのものもあります。研磨剤配合と表記がなくても、メーカー用語として、フルーツ酸、リンゴ酸、無水ケイ酸、シリカ、ハイドロキシアパタイト、つる塩、ビーズ、美白材、清浄材、吸着材などは全て研磨剤として作用する成分です。
    そういう歯磨剤を使って例えば古い10円硬貨を歯ブラシで擦ると、簡単にピカピカになるように、毎日の使用には使い方が大事です。歯磨剤を使用しないでいると暫くして、歯の表面にくすみが生じて来るでしょう。使用しないわけにはいかないでしょうから、たっぷり使うのは控え、ごく少量の使用でなおかつ、ゴシゴシ歯ブラシを止めて、細かく小刻みに、歯を削るという逆効果にならないように注意しながら、歯ブラシを動かしてください。
フッ化物入り歯磨き
フッ化物入り歯磨き
化粧品歯磨き
化粧品歯磨き

入れ歯

汚れた入れ歯は身体に悪いです

  • デンチャープラーク(義歯の歯垢(しこう))がたまる
    細菌の繁殖地、供給基地となります。お茶しぶで黒ずんできたり、食べかすが発酵して口臭の原因になります。
  • 義歯性口内炎を引き起こす
    口の中の浮遊性の常在細菌(カンジダ酵母型)が、義歯と粘膜の間で根を張り(カンジダ菌糸型)、粘膜炎を引き起こします。カンジダ菌による義歯性口内炎(慢性紅斑性カンジダ症)です。
  • 誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)の原因になる
    義歯の表面、裏面に細菌がすみつくことで、口の中は常に感染源となり、唾液に高い濃度で混ざった細菌が気管へ垂れ込み、誤嚥性肺炎を発症する率が高くなります。

入れ歯の掃除

歯垢(しこう)が付着した入れ歯
歯垢(しこう)が付着した入れ歯

キレイに見える入れ歯にも細菌は付着し、繁殖します。毎日お手入れすることで、口の中は清潔になり、入れ歯も長持ちします。

いろいろな注意事項

  • 毎食後が理想的です。
  • 無理な場合は1日1回(歯垢は24時間で形成します)
  • 汚れやすい部分は念入りに(ブラシの毛先を細部まで)
  • 入れ歯は、必ずはずして清掃します。
  • 入れ歯専用ブラシを使いましょう。
  • 熱湯をかけると、変形したり、割れたりします。
  • 漂白剤を使うと変色(脱色)します。
  • スポンジを使ってもかまいません。
  • 片マヒなどがある人も、吸盤付きブラシを使えば、ブラシを固定できるので、片手で義歯を洗うことができます。
  • 上顎の大きな凹面が案外、排水溝のぬめりのようになっています。
  • 義歯に付いた歯石はブラシでは取れません。
  • 洗面台に落として、入れ歯が割れることがあります。洗面器に水を張るなど予防の対策をしてください。

入れ歯洗浄剤のタイプ

  • 発泡タイプ:泡と過酸化水素で汚れを落とします。微生物を落とす効果はやや弱い。
    発泡タイプ
  • 酵素系:酵素の力で微生物を落とします。ヤニや茶しぶにはあまり効果なし。
  • 次亜塩素酸系:強い殺菌力を持ちます。長時間つけておくと変色(脱色)の恐れがあります。
  • ムースタイプ:抗菌効果が高く、短時間で洗浄できるのが特徴です。一般的な錠剤タイプのものと異なり、5~10分の浸け置き後、20秒の水洗で完了。入れ歯を外して口腔ケアをしている間に入れ歯の洗浄が済むので、入れ歯を装着して就寝する人には便利です。 

入れ歯は『一生もの』ではありません。

約1,000万人といわれる日本人の入れ歯人口のうち、半数以上の人が、入れ歯が合わないと感じています。

はじめはピッタリ合っていても使っていくうちに、口の状態や入れ歯自体の摩耗、変形などにより、違和感が出てきます。
がまんして使い続ければ、あごの骨が減ってさらに合わなくなります。入れ歯は「一生もの」ではありません。

少しでも違和感を感じたら、「今の自分に合う入れ歯」になるように主治医に相談しましょう。また、特に不具合がなくても、半年~1年に1度は入れ歯の定期健診を受けましょう。

合わない入れ歯はどう悪い?

食べる楽しみが低下

硬いもの、歯ごたえのあるものが食べられない、痛くて食べられないなどの問題があると、「食べる」という大きな楽しみが奪われます。

エネルギー不足になる

食は健康の源です。食が細くなると、エネルギーが不足し、体力や免疫力も低下してしまいます。

口の機能が低下する

入れ歯による痛みや不快感から、食べたり話したりすることに苦痛を感じ、口を使わなくなると、機能が低下します。(咀嚼筋や表情筋の筋力低下、顎関節の異常、喉頭の下垂(かすい)や閉鎖不全など)

入れ歯をはずしたままだと健康状態が悪化

  • 入れ歯をつけていると:歩幅やリズムが安定
  • 入れ歯をはずすと:ふんばりがきかない⇒転倒のおそれ
転倒のおそれ

入れ歯のトラブル度をチェックしてみましょう

  • 入れ歯を入れて噛むと、入れ歯がカタカタ鳴る。
  • 入れ歯をはめると、噛むたびに痛みがある。
  • 硬いものが噛めない。
  • 下の入れ歯が浮いたり、上の入れ歯が落ちる。
  • 入れ歯の金具が舌などに当たる。
  • 入れ歯がきつくて入れにくい。
  • 入れ歯を入れると味がよくわからない。
  • 口内炎ができやすくなった。

1つでも当てはまることがあったら、主治医に相談してみましょう。

唾液の重要な働き

唾液は、口の中でいろいろと重要な働きをしています。

  • 消化吸収促進効果 唾液に含まれるアミラーゼという消化酵素が、食べ物の消化を助けることはよく知られています。
  • 咀嚼時(モグモグする時)の食べ物との潤滑作用。
  • 口の中に潤いを与えて粘膜を保護。
  • 食べ物を飲み込む時の手助け。
  • 食べカスを洗い流し口内を清潔に保つ清掃・自浄作用。
  • 外来刺激に対する防御。
  • 酸性になった口の中を中性に戻す働き。(緩衝能(かんしょうのう))
  • ウイルスや細菌からの感染を予防。
  • 義歯の安定。
  • 義歯と接している粘膜の保護。

唾液が減ると口の中が汚れます

舌や頬を動かしたり、物を噛んだり、話したりなど、口の機能を使うことで、唾液腺が刺激されて、唾液が分泌されます。加齢によって唾液腺の機能が低下したり、口の動きが鈍くなってきたりすると、唾液の分泌も減ってきます。
すると、唾液の洗浄作用も十分に発揮されなくなるために、口の中が汚れやすくなり、口臭やむし歯の原因になります。
汚れをそのままにしておくと、しなやかに動くはずの舌が動かなくなったり、頬の内側の感覚が鈍くなったり、味を感じる感覚も鈍り、食事がおいしく味わえなくなります。

口腔乾燥について

口腔乾燥とは

口腔粘膜の乾燥により、種々の症状を引き起こしている状態を言います。「口腔乾燥症」=「唾液分泌低下症」ではありません。水を飲んでも口腔乾燥症は改善しません。
唾液は通常、1日に1~1.5リットル分泌されます。高齢者の分泌量は、20代の成人に比べて約7分の1に減少します。ですが、このことが口腔乾燥の主な原因ではありません。例えば、糖尿病の患者さんはよくのどの渇きを訴えますが年齢差はありません。

保湿とは

保湿という言葉には大きく分けて2つの意味があります。

  • 口腔粘膜に湿度を与える保湿(与湿)
  • 水分が蒸発しないように保つ保湿(蒸発防止)

唾液分泌量低下の原因

薬の副作用

  • 降圧剤、睡眠剤、精神安定剤、抗うつ剤、高脂血症
  • 抗コリン作用薬:自律神経抑制作用
  • 筋弛緩薬:筋弛緩作用
  • 抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤:分泌抑制作用
  • 利尿作用薬:体液減少
  • 体質(冷え症、血行不良、浮腫など)
  • 緊張やストレス(交感神経刺激による)
  • 口腔機能低下(唾液腺の機能低下、口呼吸)
  • 腎臓病、糖尿病、自己免疫疾患(シェーグレン症候群)
  • などがあります。

口の中の乾燥度をチェックしてみましょう

  • 口の中が乾いてカラカラする。
  • 口の中がネバネバして話しにくい。
  • 乾いた食べ物を飲み込みにくい。
  • 唇がカサカサしている
  • 舌がひび割れたり、口の中が痛む。
  • 夜中に起きて水を飲む。
  • 味がよくわからない。
  • 口臭がする。
  • むし歯が増えた。
  • 入れ歯を調整しても合わない。

1つでも当てはまる項目がある場合は、主治医にご相談ください。

高齢者の口腔乾燥への対応

検査(スクリーニング検査)

キソウェット(湿純度検査紙)を使って舌上、舌下で測定します。

評価

舌上、舌下の比較等から機能評価をします。

対症療法

  • 人工唾液の使用:放射線療法等で唾液腺にダメージを負った場合や、自己免疫疾患(シェーグレン症候群)の場合などに使用します。
  • 口腔保湿剤の使用:表面が角質である皮膚に対しては油分で保湿プラス蒸発防止するのに対して、表面が粘膜である口腔粘膜に対しては油分ではなく唾液で保湿するという違いがあります。

口腔保湿剤には、液体タイプとジェルタイプとがあり、液体タイプは蒸発防止より口腔粘膜の保湿度を高める点に重きを置き、例えば、臨床分類3度(舌乾燥)の患者さんに液状保湿剤で保湿ケアを行い、発語できるようになった、などとなります。ジェルタイプはどちらかというと、蒸発防止の方に重きを置いたもので、舌のひび割れなどに対してより効果的なようです。

どちらの使用についても、大事なポイントは、いわゆるカピカピ痰(たん)(剥離上皮膜(はくりじょうひまく))をふやかしてほぐして出血させないように除去した後、ジェルは特に喉に押し込まないように塗ること、前回塗布したジェルは一旦スポンジブラシなどで除去してから新たに塗り、重ねないことです。

口腔保湿剤
口腔保湿剤

唾液分泌のリハビリテーション

マッサージやトレーニングを行って唾液が出ていることを実感してください。

唾液腺マッサージ

大きな唾液腺がある場所をこまめにマッサージ。

耳下腺:耳たぶの下、頬骨の出っ張りの内側を人差し指でぐるぐる回すように押します。

耳下腺

舌下腺:舌の付け根の真下のあたりを親指を使って押します。

舌下腺

顎下腺:下あごの左右の骨の、それぞれの中央の内側を、親指を使って押します。

顎下腺

筋肉トレーニング(健口体操)

筋肉トレーニング(健口体操)

口を「イー」、「ウー」の形に大きく動かします。
舌先を前歯の付け根に3秒押しつけてから、舌を鳴らします。

ケア

口腔乾燥を防ぐために、おしゃべりに花を咲かせたり、お茶や薄めのレモン水でうがいをするのも良い方法です。
余談ですが、歯科医院での口腔衛生指導(刷掃指導)や、訪問歯科診療での口腔ケアでは、「歯磨剤」は原則使用しません。訪問先では、うがいができない人などにとって、清掃よりもうがい水の回収の方が危険だからですが、口腔乾燥という点からみると、表面活性剤、発泡剤、研磨剤などが好ましい成分ではないからです。普段のご自身の口腔ケアでも、エチケット的に少量の歯磨剤のご使用をお願いします。

嚥下(えんげ)機能とは

食べる機能の過程は、5期に分類して考えられています。

  1. 先行期・目で食べ物を捕える。手、指で食べ物を取る。指、手、腕で食べ物を運ぶ。
  2. 準備期・口唇で食べ物を挟み取る。食べ物の大きさ、硬さを感じ取る。
  3. 口腔(こうくう)期・咀嚼(そしゃく)運動の現れ。咀嚼(そしゃく)運動で唾液との混和。
  4. 咽頭(いんとう)期・食塊(しょっかい)の形成と嚥下(えんげ)位置への移動。口唇を閉じ、反射を誘発。
  5. 食道期・食道通過と満足感。

(Leopoldらの摂食の5期より引用)

このように、摂食(せっしょく)機能というのは、補食(ほしょく)、咀嚼(そしゃく)、嚥下(えんげ)の3つの機能を総称して表わす言葉です。そして、それら一連の連続した反応のことを表わします。
嚥下(えんげ)機能というのは、連続した動きの中の、1秒足らずの瞬間である、「口腔(こうくう)期」から「咽頭(いんとう)期」、「食道期」における機能のことを言います。

加齢とともに嚥下(えんげ)機能は低下します

私たちは、ふだん何気なく水分や食べ物を飲み込んでいますが、舌やノドなどが巧みに連動して食べ物を食道から胃の中に送り込みます。

けれども、加齢とともに物を飲み込む「嚥下(えんげ)機能」は低下します。そのため、うまく飲み込めなくなったり、食べ物や水分の一部が食道ではなくて、気管や肺の一部に流れてしまう「嚥下(えんげ)障害」が起こることもあります。

嚥下(えんげ)障害になると、栄養を十分に摂取できない「低栄養」となったり、「誤嚥(ごえん)性肺炎」などの病気にかかりやすくなったりするので、高齢者の健康を維持するためには嚥下(えんげ)機能の低下を防ぐことが大切です。

嚥下(えんげ)機能が低下する原因

  1. 舌の働きが鈍る。
  2. 嚥下の時に、下顎位(かがくい)の確保がしにくくなる。
  3. 下顎位(かがくい):上顎に対する下顎の位置。舌圧の強さに影響します。
  4. 唾液の分泌量が減る。
  5. 噛(か)む力が弱くなる。
  6. アゴや頬など、口腔周囲の筋力が弱くなる。
  7. ネコ背やそれに由来するアゴが前突し、『ゴックン』する時の姿勢が悪くなる。
  8. 粘膜の知覚や味覚が鈍る。
  9. 注意力や集中力が低下する。
  10. 脳卒中や認知症によって障害が起きる。 など

嚥下(えんげ)障害の症状をチェックしてみましょう

  • 食べ物を飲み込みにくくなった。
  • 飲み込む時に痛みがある。
  • 食べ物がよくノドに詰まる。
  • 食事中によくむせる。
  • 飲み込んだ時に声がかすれる。(嗄声(させい))
  • 飲み込んだ時にノドがゴロゴロいう。
  • 食事の時間が長くなった。
  • 発熱したり、肺炎や気管支炎を起こしやすい。

1つでも当てはまることがあったら、主治医に相談してみましょう。

むせることは正常な反応です

むせることは苦しいことですし、はた目にも苦しいことがよくわかります。けれども「むせる」のは、誤って気管の方へ落ちそうになった食べ物を反射的に吐き出そうとする防御反応なので、正常な反応なのです。しかし、嚥下(えんげ)機能が低下すると、ムセがなかなか止まらなかったり、むせることすらできなくなったりします。日ごろから正しく上手にむせるための呼吸の練習をしておきましょう。腹筋や背筋を鍛えることも、腹式呼吸の練習も、誤嚥(ごえん)の予防につながります。

ノドの詰りが解消しない時の応急処置

  • 患者さんを前かがみにして、口の中に指を差し込み、舌を押し下げ、背中を叩きます。患者さんには大きく咳をしてもらいます。(背部叩打法(はいぶこうだほう))
  • 患者さんの背後に回り込み、背後から両腕を腹部に回し、片方の手を握りこぶしにして、もう片方の手をそのこぶしに重ね、へそとみぞおちの間に当てます。こぶしを手前に引きながら上に突き上げるように、強く圧迫します。(ハイムリッヒ法)
  • 患者さんを立たせて、胸の下を支えながら前かがみにさせ、肩甲骨の間を強く数回叩きます。(胸部圧迫法)

これらの応急処置の最中に、意識をなくしたり、呼吸困難になっているようなら、すぐに救急車を呼んでください。

咳・強制呼出手技 ハフィング 咳嗽(がいそう)訓練

⇒「むせる」練習をしませんか《深呼吸と咳の呼吸練習》

お腹に手を当てて、腹筋を使って勢いよく咳をする練習をします。

お腹に手を当てて、腹筋を使って勢いよく咳をする練習をします。

深呼吸をして、いったん呼吸を止める。

深呼吸をして、いったん呼吸を止める。

「エッヘン」と咳をして大きく息をはきだす。これを何度か繰り返します。

頸部回旋(けいぶかいせん)(横向き嚥下(えんげ))

(片マヒの人の介護食事時に効果的です)

片マヒの人はマヒのある側のノドがうまく動作しないため、食事の時にノドに食べ物が止まってしまい、誤嚥(ごえん)につながることがあります。

食べ物を飲み込む時に、マヒのある側に首を傾けるのです。真横よりも少し下に傾けるのがコツです。
例えば、右にマヒのある人は、右下に首を傾けて嚥下(えんげ)します。こうすることでマヒのない側のノドが広がって、食べ物が通りやすくなります。
ただし、マヒの側のノドに食べ物が止まっていることもありますから、ときどきは右マヒの人も左に首を傾けて横向き嚥下(えんげ)をしてみてください。

交互嚥下(こうごえんげ)

(水分補給にも効果的です)

夏場はもちろん、冬場も乾燥した空気で体内の水分はジワジワ奪われていきます。特に高齢者は体内に水分を蓄えておく力が弱まっていますから、しっかりと水分補給をする必要があります。

食べ物を1口食べた後、飲み物を1口飲むことで、口の中やノドに残ったものを水分で洗い流して、さっぱりしてから次の食べ物を口に入れます。こうしてノドに残った残留物が気管に入って誤嚥(ごえん)するのを予防することができます。
嚥下(えんげ)に心配のない人は、水、お茶、みそ汁などで、誤嚥(ごえん)が心配な人はお茶などを市販のトロミ剤でゼリー状にして摂(と)ってもらうといいです。

顎引き嚥下(あごひきえんげ)(うなずき嚥下(えんげ))

頭部屈曲位、頸部屈曲位、Chin down、Head down
飲み込む時に、少し上を向いてから、うなずくようにゴックンします。

顎引(あごひ)き嚥下(えんげ)(うなずき嚥下(えんげ))

「訪問歯科診療」のご案内

西宮市歯科医師会では、通院困難な、概ね65歳以上の患者さんを対象に、「訪問歯科診療」を行っています。
お手元に、医療保険と介護保険の各保険証、ケアマネジャーさんのお名前、連絡先、内科の主治医の先生のお名前、連絡先をご用意し、「西宮歯科センター」(電話:0798-33-0410)、または歯科の主治医にお尋ねください。

西宮歯科センターでは、火・木の9:00~17:00、水・金の13:00~15:00以外、月曜休館で、受け付け・問い合わせに対応しています。